このような症状はありませんか?
膵臓には消化酵素を作りだす外分泌機能と様々なホルモンを作る内分泌機能があります。そのため膵臓の機能が低下すると、背部痛、上腹部痛、下痢、腹部膨満感、吐き気・嘔吐、食欲低下、黄疸、体重減少、低血糖症状などさまざまな症状を引き起こすことがあります。それぞれの症状は膵臓以外の疾患でも生じることがあり、複数の症状があるから重度の膵臓疾患とも限りません。こうした症状がある場合は、幅広い疾患を疑いながら膵臓に関しても適切な検査を受けて原因を特定することが重要です。その一方で膵がんのように最初のうちは全く症状がないこともあります。
背部痛、上腹部痛
膵臓は背中側にある臓器のため、背部痛が見られることがあります。背部痛といっても背中全体ではなく上腹部の裏側の背中になります。併せて上腹部も痛くなることがおおいですが、上腹部痛だけで背部痛がないこともあります。膝を胸のあたりまで抱えてうずくまると痛みが軽くなる特徴があります。
痛みは違和感程度のこともありますが、強弱のあまりない持続的な鈍い痛みとして感じることもあり、中には我慢できないほどの激しい痛みになる場合もあります。
とくに大量の飲酒後に強い背部痛が見られた場合は、急性膵炎の可能性が高くなります。激しい背部痛が急に見られた場合には、大動脈解離や尿路結石、腎盂腎炎など緊急性を要するような病気も疑われます。いずれの場合も入院施設のある大きな病院を受診することをお勧めします。
上腹部痛は胃、十二指腸、大腸、胆嚢、胆管など様々な臓器の疾患でも見られ、症状だけではなかなか診断することはできません。受診していただき検査することをお勧めします。
倦怠感
倦怠感はあらゆる病気で見られる症状です。病気ではなく、単に疲れているだけでもだるくなります。ただし、なんとなくだるいのが続いている場合は病気かもしれません。膵がんだけでなく、甲状腺や副腎などの内分泌疾患、電解質異常、貧血、膠原病、腎不全、自律神経疾患などを考える必要があります。
下痢
下痢はポピュラーな症状のひとつですが、大腸や小腸の疾患で最も多く見られます。
膵臓に原因がある場合は、油ものの摂取で下痢になりやすい傾向があります。また、慢性膵炎では脂肪の消化吸収が不十分になり水に浮いて脂っぽく見える脂肪便という症状が出ることがあります。
黄疸
皮膚や白眼の部分が黄色く見える症状が黄疸です。肝臓や胆汁の通り道である胆道に障害がある場合に見られることがあります。肝硬変や重症の肝炎や総胆管結石による胆石症、膵がん、胆管がん、乳頭部がん、胆のうがんなどが原因になります。緊急で対処が必要なことが多いため、放置しないようします。軽度の黄疸では自分自身では気が付かないことも多いため、周りの人に黄色いと言われることがあります。また皮膚が痒くなったり、尿が紅茶様に濃くなったり、白っぽい灰白色便を伴うこともあります。
低血糖症状
冷や汗が出て、イライラしいても立ってもいられない感覚があり、めまい、手足の震えや動悸などを伴い、さらに悪化すると急に気が遠くなったり、気を失う昏睡症状を起こしますが、糖分を摂取することで次第に治まります。糖尿病の治療を受けている方が血糖のコントロールがうまくできずに起きてしまうことがありますが、膵臓の外分泌機能が低下している場合や、インスリン産生腫瘍、反応性(機能性)低血糖、インスリノーマなどによって起こっている可能性もあります。
低血糖を起こしそうな予兆を感じたら、ブドウ糖の多く含まれたラムネや砂糖の多いジュースなどをすぐに口に含むことで強い発作を起こさずにすみます。また、膵臓への負担を下げることで低血糖を起こす頻度を下げることができます。
セルフチェック
膵臓疾患は、グレーゾーンでも強い症状が現れるケースと、かなり進行しないとはっきりした自覚症状を起こさないケースがあり、症状の出方に大きな個人差があります。この症状があったら重症といった明らかな目安はありません。また、複数の症状があっても膵臓疾患ではないこともあります。
下記では、膵臓疾患に関連した症状や状況を集めています。当てはまるものがあれば膵臓に疾患があることも念頭において医療機関を受診してください。
- だるい・倦怠感がある
- すぐに疲れて横にならないとつらい
- 持続的な上腹痛が何度か繰り返す
- 持続的な背部痛がある
- 空腹を我慢していると、冷や汗、イライラ、めまいなどの低血糖症状が起こる
- 吐き気を起こすことが多い
- 食事で胃もたれする
- 油ものやアルコールで下痢や腹痛を起こしやすい
- 食べても太りにくい
- ずっと食欲がない
- 膵臓病や糖尿病の血縁者がいる
- 糖尿病と診断されたことがある、糖尿病予備群と指摘された
など
当院の検査
膵臓の疾患が疑われる場合は、適切な検査を行うことで原因を特定することが特に重要です。検査をしても異常がない場合も多いのですが、進行が速い疾患もあるためまずは検査をすることをお勧めします。膵臓機能が低下している方は、膵臓に配慮した生活を送ることで症状を改善できることも少なくありません。
当院では、膵臓疾患や機能低下を疑う症状がある場合には、健康保険適用される基本的な検査を行って疾患の有無を確かめていきます。膵臓疾患がわかっても、病状が安定し検査結果に問題がない場合は、症状に合わせた生活指導や経過観察を行って、できるだけ快適に生活でこるようサポートしています。
血液検査
膵臓の疾患が疑われる場合には、膵酵素であるアミラーゼやリパーゼの検査を基本に、必要に応じて、腫瘍マーカーのCA19-9などの検査を行います。
腹部エコー(超音波)検査
臓器・器官の形状や大きさ、動きなどをリアルタイムに観察できる検査です。胎児の状態を調べるためにも使われるほど安全性が高い検査です。腹部エコー(超音波)検査では、病変や臓器の部位など目的の画像情報を得ることができますが、消化管内のガスや周囲の脂肪などによって鮮明な画像を得られないことがあります。膵臓は後腹膜臓器といって背中側にある臓器のため、腹部エコー検査では全体を網羅できないこともあります。また膵臓の腫瘍ではある程度の大きさがないと検出できる可能性が半分程度に下がってしまいます。
健康保険適用の腹部エコー(超音波)検査では、膵臓、胆のう、肝臓、脾臓などの観察を行うため、膵臓以外の疾患が疑われる場合にも有効です。
胃カメラ検査
膵臓は胃のすぐ後ろ側にあるため、みぞおち周辺の痛みがある場合、膵臓と胃のどちらに原因があるのかわからない場合があります。胃粘膜は胃カメラ検査で詳細に観察できますので、疑わしい場合は先に胃カメラ検査を行って胃粘膜など消化管に病変がないことを確認する場合があります。特に胃がんは、早期に発見できれば内視鏡による治療でほとんどが完治を望めますので、早期の検査は無症状の微細な病変を発見するためにも有効です。
大腸カメラ検査
大腸はお腹の最も外側をぐるりと一周しています。膵臓の近くにも大腸があるため、膵臓の疾患が大腸に影響し大腸にガスがたまりやすくなることもあります。大腸のガスが膵臓の疾患か大腸そのものの疾患か判断が難しい場合もあるため、大腸カメラ検査を行いはっきりさせることもあります。
なお、便潜血検査は大腸がんのスクリーニング検査のため、このような場合の検査としてはふさわしくありません。